シュガー&スパイス


必死に鍵を探していた手首が掴まれて、そのまま体も一緒に固まってしまった。



なんかすごくいい香り……。
これって、シャンプーの香りだ。


無造作にセットされた真っ黒な髪。
その前髪の間から、千秋は真っ直ぐにあたしを見下ろす。

どぎまぎして、何度も瞬きを繰り返してしまう。


なに? なんなの、これ。



そして、不意に千秋の眉がクイッと上がった。
視界が何かで塞がれる。



へ?





「探してるの、これ?」




目の前をよく見ると、それは見覚えのあるうちの鍵だ。




「え? なんで千秋が……」

「なんでって、今鞄から落ちたんだけど」



え、いつの間にっ

いくらなんでもぼんやりしすぎだ。



「あ、りがとう」



ぎこちなく受け取ると、千秋はフワリと髪を揺らしながら笑った。




< 66 / 354 >

この作品をシェア

pagetop