夫婦の始まりは一夜の過ちから。
「そこに誰か居るんだよね。で、俺を引き留めてるんだよね?」
「そうです」
さっきの店員さんとは違う声だ。
それに“俺”ってことは男の店員さん?
「あの、わざわざすみません。本当は私が」
本当は私が、と言ったすぐにクラッとした目眩と今日一番の吐き気がいきなり私を襲ってきて。
「うぅっ」
堪らずそばにある大きな岩に手を付きながら口に手を当てる。
「え、ちょ、大丈夫?」
そんな私に気付いたのか店員さんはそう言い、じゃりじゃりと砂利の音をたてながら私の方に近付いてきた。
どんどん近づいてくる影毎にぼんやり影からはっきりとした人間の姿に変わっていき、その店員さんの顔がはっきりと見え私の視線と店員さんの視線が重なった瞬間、
「って、危ない!」
傾く身体を感じながらそこで私の意識はプツリと途切れた。