夫婦の始まりは一夜の過ちから。
「それで、何か話したい事でもあるのかな?」
「はい」
上司の顔を見ながら出勤中に何度も予習してきた言葉を口にする。
「実は退職を考えてまして」
あ、間違えた!
先に辞表を出してからその言葉を言うんだった…
順番を間違えてしまったことに焦りながらテーブルの上に辞表を置く。
「辞表かぁ」
「はい。それであの申し訳ないんですが、これを預かって頂けないでしょうか」
「受け取るじゃなくて?」
「はい。受け取るではなく預かってもらいたいんです」
――そう、私が上司にお願いしたいのは私が書いた辞表を預かってもらいたいという事。
「中谷くん。詳しく聞かせてくれるかな?」
「はい」