結婚してください。パンツ見せてください。
部活が終わり、俺は一人で練習を始めた。いくら日本に慣れていないからといって、一人だけ休んでは迷惑になるからだ。

しかし、やはり同じサッカーとはいえ、新しい環境ではやりにくいのはたしかだ。


「はぁ……いってぇ」


いつのまに捻った(ひねった)のか、足首が赤く腫れている。


耐えきれずに座り込むと、空が見えた。夕方で赤い空。

「おー、きれーだな」

「貴方でも何かを綺麗と思うんですね」

「うおぁ!」

いつからいたのだろう。声は後ろにいた昴だった。

昴はグラウンドのど真ん中で座る俺を、何か珍しいものを見るような目で見ていた。


「一人だけで練習ですか。痛くて淋しい青春を楽しんでいるところ悪いですが、下校時間を過ぎています」

「痛くて淋しいとか言うな!ただ純粋に練習してただけだっての!」

「あ、そうだ」

「ちょ、無視とか」


肩から提げていた鞄を漁り、何かを取り出した。


「どうぞ」

「スポーツドリンクと、タオル?」

「あ、余ったから、差し上げますよ。別に、貴方のためではないので。勘違いなさらずに」


あきらかにさっきまで冷やしてあったスポーツドリンクと、洗い立てのタオル。どう見ても余ったものではない。

それになんだか挙動不審だ。昴らしくない。


「……もしかして、照れてる?」

「…死ね」

「え、なんで!?」


どうやら本当に照れているようだ。
いつもの無表情が、どこかふくれているようにも見える。


「……ぷっ、くく…」

「! 何を笑っているんですか。馬鹿にしているんですか、馬鹿のくせに」

「あっははは!なんだお前、案外可愛いじゃん!」

「とうとう頭がイッてしまったみたいですね。馬鹿馬鹿しい」

「馬鹿って言い過ぎ」

「うるさいです、ばか」


二人しかいないグラウンドに、俺の笑い声が響く。昴は少し顔を歪め、不機嫌そうな表情をした。






嬉しいのかもしれない。

自分ではどう頑張っても昴の表情を変えることなどできないと思っていた。東藤じゃないと無理だと思っていた。

それが、こんな簡単に、それもこんな風に叶うとはな。


「また練習の時タオルとかちょうだい」

「……まあ、あげないこともありません」

「ツンデレとか可愛い」

「黙ってくださいばか」
< 20 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop