あの子の隣に座るコツ!
トン、トン、カチッ。


この雀牌の音と手触り。
何度も言うがたまらない。


麻雀や、野球や、RPGだったら、ややこしいルールや制約もちゃんと覚えられるのに。



それが英単語や、数式や、藤原氏の家系なんかになると、途端に俺の記憶力はニワトリ並みに低下してしまう。



好きこそものの上手なれ、とはよく言ったものだな。



「…これだけ捨て牌が偏ってたら、ソーズは警戒しないと…」

「でも、ソーズ捨てないと俺があがれないじゃん」

「あきらめるのも戦略だよ。染め手にメンゼンでフリ込んだらどれだけひどいことになるか、さっき体験したでしょ」


「…ユウキ、“ソメテ”ってなんだっけ」


「ユウせんぱぁい!」



あ、またユウキちゃんがサジ投げた。


「杉山がバカ過ぎるのはみんな知ってる。何とか教えてやってくれ」



「あたしまでおバカになりそうです!染め手も捨て牌ももう何十回と教えてるのに!」



あー、直紀に限ってはさっきのことわざは当てはまらないみたいだな。麻雀が好きなのは間違いないんだが。



「何十回と?嘘だ!染め手なんて初めて聞くって!」



「はぁ?チンイツもホンイツも一緒に教えたでしょうが!“うわぁ、これ出したら絶対気持ちいいよな”って、直紀くんは教える度に言ってます!」



俺も覚えてるな。チンイツとホンイツ合わせて“染め手”って言うんだが、それを聞いて直紀が“なるほど、うまいこと言うな”ってこぼしてたのも最近の出来事な気がするぞ。



「あたし、自信なくしちゃうよ…絶対分かりやすく教えてるのに」


「お、おい、悪かったよ、ユウキ」


ちょっと落ち込んでしまったユウキちゃんに、直紀が慌てて謝った。



「あーあー。また夫婦ゲンカですか」



苦笑いを浮かべた進が、直紀たちには聞こえない音量でぼやきながら牌を切る。



「若いねぇ、1年生は」



啓一も同調して、牌をカチャッと放るように捨てた。あ、その牌欲しかったのになァ。



「それに比べて、お前たちは全然女っ気がないなぁ。ちゃんと女子と話してるか?」



ユウ先輩が2年生3人の顔を見回して言った。なんかイヤミなんですよ、ユウ先輩が言うと。
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