あの子の隣に座るコツ!
「アリサ」


アリサの姿を捉えた俺は走るスピードを落としながら、ツカツカと早足で歩く不機嫌そうな背中に声をかけた。


「なに。馴れ馴れしく呼ばないでよ。あとあたしの視界に入ってこないでよ」



こちらを振り返ることも、立ち止まることも、歩くスピードを緩めることすらしないままに、アリサはとにかく冷たい言葉を選んで俺にぶつける。



「待てって。ありがとな、教科書持ってきてくれて」



アリサの言いつけ通り、俺はアリサの視界に入らないよう、彼女の少し後ろをキープして歩いた。



「別に。永野くんに頼まれただけだし」


「啓一に?なんで」



「知らないわよ。用事があるから、とか言って先に行っちゃうんだもん」


「用事…ねェ」



「そんなことより、なによ?テスト奪還作戦って」



歩きながらチラリとこちらを振り返って、アリサが疑り深げに尋ねてきた。



「…聞いてたのか」

「聞いてちゃまずかったわけ?」



歩きっぱなしの背中から、不機嫌な返事が返ってくる。そんなに殺気をむき出しにするなよ、正直怖い。



「別に先生にチクらなきゃまずくはないけど」


「何であたしに黙ってたのよ」



「…は?」


「何でそんなに面白そうなコト、あたしに黙ってたのかって聞いてるのよ」



再びこちらを振り返ったアリサはもう、それはそれはワルそうな笑みを浮かべていた。



「どうせ麻雀部とかいういかがわしい集団の企みでしょ?あたしも混ぜなさいよ」

「混ぜろったって…お前は麻雀部じゃないだろ」


「麻雀部ではないけど、さゆみの友達ではあるわ」

「…全部聞いてやがったのか」



まずいな。こういうのは本人にバレないように成功させるからカッコいいのに。


アリサがミッションを東條さんにばらしてしまったら、なにかと厄介だぞ。



「考えは立派だけど、手段は最低よね。真面目なさゆみにこの悪巧みがバレたら、あんたどうなるかしら?」



「うっ…」



足を止めたアリサは底意地のワルそうな笑顔で、俺の顔を指差した。目の前に指を突き付けられて、俺も足が止まる。



「ナントカシロ」


にぃっと口角をあげたアリサの声色は、語尾にハートでも付きそうな可愛らしさ。


やれやれ。
恋に落ちそうだよ。



こんな脅迫じみたセリフじゃなけりゃな。
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