すがりつく
すがりつく



「別れよう」


それはあまりに突然の言葉で……

体を重ねた後に出る言葉にしては

不似合いで冷酷で
卑怯な言葉だった。


彼は、さっさと服を着はじめる。


「え……どうして?」


私は身動きも出来ないままやっと声を絞り出す。


「とにかく、もう終わりにしたいんだ。別れたい。」


彼は取り合ってくれない。


同じ問答を繰り返す。


何度目だっただろう。
「うるせえな!もう終わりなんだよ!」
と彼は怒鳴った。


その怒鳴り声に堰を切ったように、私は声を張り上げる。

「私は別れたくない!」
「貴方と別れたくない!」
私は必死に続ける。

「悪いところは直すから、そんなこと言わないで!」

「くどいんだよ!もう顔も見たくないんだよ!」
彼はそう吐き捨てると玄関へ向かった。


「お願い!捨てないで!別れたくない!」
私は彼を追いかけすがりつく。


必死にすがりつく。

自分が裸でいることなんて忘れて
彼にすがりつく。


「お願い……」

私の必死の哀願も虚しく、彼は部屋を出ていく。



冷たくドアが閉まり

部屋に残された私は泣き崩れた。


どれくらい泣いただろう。


ふと硝子に映る自分に気づく。


硝子に映る私の姿は
背中が丸まり
あまりにも小さく
あまりにも醜く
あまりにも滑稽で
そして
あまりにも可哀想で……。


私は激しく泣いた。
張り裂けんばかりに泣いた。

泣いて泣いて泣いて
息が苦しくなって
嗚咽と号泣を繰り返して
泣き続けた。









そして
私は灰になった。











貴方を愛して
私は灰になった。

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