スイート・オムレット
お弁当
笑えない!ぜんっぜん笑えない!

誰もいない体育館裏の木陰で一人強張った顔をしているわたし。
手にはお弁当のはいった巾着袋を抱えて。今ぜったい人に見せられない顔してる。

ってゆーか!
なんで体育館裏なの??
なんで手作り弁当なの??
まだ数回言葉を交わした程度なのに!!
颯のやつ勝手に突っ走って!!
あの娘バカなの??
わたしもなんで素直にお弁当作ってきてるのよ、ああーもう!!
でも、悪戯だと思われたら嫌だし……。
もう逃げられないじゃない!!
颯のバカバカバカ!!

わたしもバカ……。


「美咲さん?」

心臓が跳ねる。
振り返れば、ずっと眼で追ってた見なれた顔。
でもいつも横顔だったから、正面から見るのは少し新鮮かも。

心臓の音がさっきから鳴り止まない……。

うるさいよ……。

この音、聴こえてないよね?


「あれ、颯さんは?」

颯は、たぶんその辺の茂みに隠れてのぞいてる……なんて言えない。

「ごめん…ね、わ、わたしが颯に頼んだの。その、あ、その、……コレ!!」

お弁当を持った手を突き出す。
顔、直視できないよ……。
ああ、熱い。
火が噴き出しそうだよ。
こんなの告白してるようなもんじゃん!!

沈黙が怖い……お願い、何か言って。


「お弁当?俺に?」

「い、いつもコンビニで買ってるみたいだから……身体に、よくないと思って……」

うまく言葉が出てこない。
もうやだ、絶対変な奴だと思ってるよぉ。
そう思ってそれ以上何も言えなくなって黙ってしまったわたしに、ところが思いもよらない返事が返ってきた。

「マジ?!さんきゅー♪」

そう言って彼は受け取った弁当箱の蓋をあける。

「うっわ、超うまそう!これ美咲さんが作ったの?すげー!ありがとう!」

満面の笑みで浮かべた彼の顔を見て、わたしの心臓がもう一度跳ねる。
そして今度はきゅ~うっと締め付けられるように鼓動すると、だんだんと落ち着きを取り戻すように脈打った。

……いつもより少し早いみたいだけど。


「うん」

その日初めて、そしてその日一番の笑顔で、わたしはしっかり彼の顔を正面から見ることができた。

その日の晩御飯をわたしは3回もおかわりしてしまった。
< 2 / 5 >

この作品をシェア

pagetop