紅蓮の鬼



飛屋久が竜胆を抱え上げて、飛ぶ。


ここから一番近い彼の里につれていって、治療をさせるのだろう。


我は小鬼を呼び、直ちにこの事を水陰に伝えるよう言った。


まだそう離れていない筈だ。


そして、我は急いで飛屋久の里に行く。


「………………」


木の枝が我に当たる度に、我が行く道を阻んでいるような気がした。


「………………」


――畜生


「……………っ……」


我は唇を噛み締める。


彼女の言った通りだったのかもしれない。


我は力強く、地面を蹴った。


「……………………」


風が剃刀のように鋭く肌に当たる。


ふと、この時期に彼女を死なせたら、などという考えが脳裏をかすめた。


「………………」


我は小さく舌打ちをし、眉を顰める。


額に汗が滲んだ。




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