危険な瞳に恋してる
 あれ……?

 紫音って……本当は優しい……?

 わたしを心配してくれているような声音に、ちょっと驚いた。

 ……でも。

「でも、わたし、加藤先輩が好きなの……!」

 先輩が、ボールを追って走っているのを見るのが好き。

 シュートが上手くいって、チームメイトと笑いながら、もみくちゃになっているところも。

 他にも。

 他にも。

 サッカー部のマネージャーとか、ファンクラブとか、そういった中に入るのはすごく苦手だけど。

 先輩が好きで……

 先輩に気に入られるなら、きっと何でもできる、って思ってた。

「……サッカー部の加藤か?
 噂は、色々聞いている」

 紫音の顔が一瞬引っ込んで、ふ……とわたしが良く知っている村崎先生になったような気がした。

 いつも、静かに。

 穏やかに話しをする、村崎先生に。

「どれも、あまり良い噂では無かったな……守屋。
 男が欲しいなら……オレを……試してみないか?
 オレだって相当薄汚れてはいるが、あんなガキよりは、まだマシだ。
 オレは、あんたが好きだよ?」

「……え?」

 そそそ、それって……!

 思いもかけない言葉に、ぼんっと、顔が赤くなるのがわかる。

 それって先生がわたしに告……?

 わたしが一人でじたばたしていると、村崎先生は、すっと紫音に戻った。

「……冗談だよ、莫迦だな。
 からかい甲斐のある奴。おもしれぇ」

 な、なによっ!

 今度は、わたしの中で何かがぷちっとキレた。
 
< 29 / 313 >

この作品をシェア

pagetop