いつかの君と握手
覗きこんでくる顔が、酷く近い。
体が浮いているような、馴れない感覚。
つーか今、超密着している。


「……も、もー無理っ、限界っ!!!!」


たまらず叫んでしまい、半ば転げ落ちるようにして離れた。
あー、逃げた。と残念そうに呟いたイノリを睨みつける。


「あ、あのなあ! 免疫も耐性もないんだがら、す・ん・な!」

「だって、やっと会えたのに? 俺の9年間も考慮しろ」

「オマエの事情は知らん! と、とにかく話は一通り済んだから、もうあたしは行く!」


顔というか、全身が熱い。
血液が沸騰してしまうんじゃないかと思う。


イノリに言われたことも、されたことも、受け入れられるレベルを優に超えた。
一時撤退。あたしには状況整理の時間が必要だ。


「ちょっと待て」

「無理! もう無理! これ以上されたらショック死するから、あたし!」


うあああ、と叫んで、ダッシュで逃げた。
つもりだったが、足に激痛が走った。

うぐう、痛い。怪我してたんだった、あたし。
神テーピングも、全力疾走までは許してくれないようだ。

あうう、とその場に蹲った自分が、情けない。


「ほら、来い」


涙目で足首をさすさすと撫でていると、イノリの声。
顔を上げたら背中がこちらに向けられていた。

ああ、逃げられなかった。
あたしってホントにかっこ悪い。


「急に走るから、痛んだんだろ? ほら、乗っかれ」

「い、いらない」

「いらない、ってなんだよ。ほら、背中乗れ」

「いいって」

「心配しなくても、もうミャオが困るようなことしないから。今日は、とりあえず話は終わり、な?」

「当たり前だ! じゃなくて、そんなことしたらまた視線集めることになるじゃん!」

「またそんなこと……」


はあ、と呆れたようにため息をつかれた。


「そんなこと、とか言うな。今朝の騒ぎ、もう忘れた?」

「周りなんて気にするほうがおかしい」


ああ、もう会話になんねえ、こいつ。


< 217 / 322 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop