いつかの君と握手
「オレは、やっぱり大澤は美弥緒が好きなんじゃないかと思うんだよね」

「あたしもそう思う! やっぱりそうだよねえ」

「それ以外理由が思いつかないよね」

「だーかーらー、それはないって」


盛り上がる二人に水を差すようで悪いが、そこはきっちり否定させてもらう。


「なんで? 可能性として否定できないよ?」

「さっきも言ったけど、大澤はあたしを誰かと勘違いしてるだけなんだよ。
今日のいざこざの時も、俺の知ってるお前じゃない、みたいなこと言われたし」


お前の知ってる『あたし』って、どんなんだよ、ってね。
ひょいと肩を竦めてみせると、穂積は考え込むようにううん、と唸った。


「勘違い、で済む話なのかなー。だって入学してもう3ヶ月だよ?
大澤は毎日のように君を見てるんだから、人違いならいい加減気がつくと思うんだけどな」

「とは言われても。記憶なんて、ないんだよ」

「うん。美弥緒の言ってることが嘘だと思ってるわけじゃない。どこかで、ズレがあるんだろうな」

「ズレ、ねえ」


確かに、大澤が鈍い人間だと仮定しても、そろそろ人違いだと気付いてもよさそうなもんだ。
いくらあたしがそこいらにありがちな容姿だとしても、同じ顔の人間がたくさんいるわけじゃないしね。


「うー、ん。ありえないとは思うけど、とりあえず、親に訊いてみようかな」


9年前のK駅、だったよね。
もしかしたらあたしがすっぽり忘れているだけで、行ったことがあるのかもしれないし。
だとしたら、何か思い出すのかも。


「そうだね。確認してみたらどうかな?」

「うん。なにかわかったら穂積にも報告するよ」

「うん。ありがとう」

「じゃあ、そろそろ帰ろっか。明日、早いしね」


話が落ち着いたところで、琴音が言った。
そうだ。あたしは人よりも更に30分早いんだった。

鳴沢様の録画予約の確認や、荷物の確認もしなくちゃいけないし。


「よし、帰ろう。じゃあ、今日もお疲れさまでした!」

「ああ、お疲れさま。明日は、楽しく頑張ろうね」

「うん」


慌しく教室を後にした。



< 23 / 322 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop