いつかの君と握手
ぎゅ、と受話器を握りなおして、気づいた。

やけにぼろぼろだ、この電話。
設置されて間もないはずなのに、こんなに古びているもの?
ふ、と電話台に視線をやったら広告シールがべたべた貼られていて。

その中の一番上にあった新しそうな一枚に、
『有効期限:平成15年 7月まで』
と書かれていた。

へいせいじゅうごねん、って……?


『もしもし。及川ですが、ええと、ちがさきという生徒は我が校には』

「っ、すみません! 間違えました!」


森じいのしゃがれ声ではない、若々しい男性の声がして、思わず受話器を叩きつけるようにして通話を切った。


「どういう、こと?」


辺りを見渡す。
『ここ』は、どこ?

なにか違う。

と、さ迷わせていた視線が、一点で止まった。

駅の構内に設置された、大型ビジョン。
グレーのスーツを着たキャスターがニュースを読み上げていた。
その下の日付は、平成15年7月10日。


今、平成24年だよね……?
西暦だと、ええと、2012年。
西暦だの元号だの、年賀状書く時しか意識していない。
でも、間違えてない、よね。

何かの間違い? 季節外れのエイプリルフールとか。
みんなが来ないことも、森じいの代わりに知らない男の人が出たことも、みんな。

って、あたし一人を騙すのに、どんだけ手間ヒマ費やしてんのって話。
ありえないし。じゃあ今の状況は何だ。わかんねー。


「なんか、飲むか……」


こんな時は、一息つくに限る。
頭を一旦空っぽにすれば、考えもまとまって解決策がでるってもんだ。
って鳴沢様が言ってた。


ロー●ンから代わっていたヤマザ●に入り、お茶のペットボトルを取る。
レジに行き、財布から千円札を一枚差し出すと、それまで無愛想だったレジのお姉さんが首を傾げた。


「ええと、これ、なんだか紙幣が違います、けど……?」

「え?」


自分の手にある紙幣をまじまじと見る。
野口英世。間違いない。


「これ、千円札、ですよ?」

「千円札って、これですけど」


不思議そうに見せてくれた紙幣には、夏目漱石。
夏目漱石って、前の千円札でしょ。旧札ってやつで、今はこれじゃん?


……あれ。お札がリニューアルされたのって、いつだっけ。
もしかして、平成15年って、まだ紙幣が新しくなってない、とか?
お姉さんが訝しそうに眉に皺を刻む。


「あの。お客様?」

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