いつかの君と握手
まず。

ここは平成15年7月10日。
あたしのいたのは、平成24年7月12日。
何故かタイムスリップした様子。

思い返せば、車に轢かれかけたあの時が時間の境目だったんじゃないだろうか。
降っていたはずの雨は止み。車道にいたはずが歩道にいた。
ぶつかってきたのは車でなくイノリだった。

うん、間違いなくあの瞬間だな。


次、現状。
お金はほとんど使えない、無一文状態。
知り合いももちろんいない、無国籍状態。
警察に捕まれば人生たぶん終了?
マッドサイエンティストを彼氏に、なんてぶっとんだ趣味はないしな。

横にいるのはこちら側で唯一の知り合い(と呼んでいいのか?)の加賀祈(6)。
どうやらあの大澤の幼少時。
あたしの危機を救ってくれた。


次。

イノリは母を失い、実父に引き取られた。
義父はイノリのことを思い、身を引いた(っぽい)。
イノリは実父より義父が好きで、いなくなった義父を探しに一人で出かけようとしていた。
そこであたしに会い、今に至る、と。


うん、ここまでは了解。
状況は理解した。

で、だ。
こっちに来る前に、大澤が「俺の知ってるミャオと同じ服」と言っていた。
あの時は漠然と恐怖を感じたんだけど、

そうか、そういうことだったのか!
タイムスリップしたあたしが、大澤(幼)に出会った、そういうことなのね。


大澤は、本当にあたしを知っていたんだ。
それも、高校生のあたしを。

おおおおおお、パズルのピースがぱきぱきと嵌まっていく。

高校生のあたしを知っていたから、大澤は入学式のときにあんなに驚いていたんだ。
あたしの名前を知っているから、ネコみたいって会話をしたから、『化け猫』だなんて言ったんだ。
自分の昔の記憶そのまんまの女が目の前に現れたら、うろたえて当然だよな。

でもあたしは大澤をもちろん知らないから、あいつは遠巻きにあたしを観察してた、というわけか。


うーわー、納得。そういうことね。


やだ、それならあいつに悪いことしたなあ。
さっきなんて感情まかせに文句いっちゃったし。


でもまあ、知らなかったんだから仕方ないか。

それで、今後だ、今後。
大澤の言動を必死に思い出す。
何か大事なこと言ってなかった?
元の世界に帰れるようなヒントとかさあ。
えーと、えーと。うーん……。


『――が会いたがってるぞ。オマエ帰ってから一度も連絡しないからさ』


そう! そうだ!
そんなこと言ってたよ、確か。
誰が会いたがってたのかまでは、ちょっと覚えてないけど。
帰ってから、ってのは、あたしが元の時代に戻ったことを言ってたんじゃないだろうか。
多分あたしは大澤(幼)と行動を共にして誰だかに会い、その後に元の時代に返ったのだ。
ううん、多分じゃない、きっとそうだ。そう信じるんだ。
こんな状況で希望を持たずしてどうする。

帰る糸口発見!


ということで、イノリと行動を共にするとして、だ。
どうするか、だよなあ。

気になることがある。
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