いつかの君と握手
そして、目的地を柳音寺→織部のじいさん家に変更。

目指す場所は、ここから更に山奥に行ったところにあるらしい。
道を真っ直ぐにいけばすぐだから、とおばあさん(この人は加賀父の知り合いで、お寺の掃除、食事の世話などしてくれているのらしい)に教えられた。


歩いていけるということで懐中電灯を貸してもらって、現在4人で田舎道をほてほてと歩いている。

加賀父め、出番を渋るじゃねーか。
ここまで苦労させられるとは思わなかったんだぜ。
今度こそいてくれよ。じゃない、いて下さい。お願いします。

しかし、今日はよく歩く一日だなあ。
つくづく、スニーカー履いててよかったと思う。


「イノリ、平気? 眠くない?」

「平気。ミャオ、疲れちゃったの?」

「いやあたしはまだまだ平気」


小学生のあんたが弱音吐かないのに、あたしが疲れたなんて絶対に言うものか。


「しっかし、田舎よねー。街灯も全然ないし」

「でもそのお陰でさ、星が多いような気がしねえ?」

「え、どれ? ぎゃ!」


あたしとイノリの前を歩いていた2人。
三津の言葉に空を仰いだ柚葉さんが何かに躓いた。
こけそうになるのを、三津がすばやく抱き取る。


「あっぶねーな。考えなしに上向くなよな、馬鹿」

「はぁ? アンタが見ろっつったんじゃん!」

「オレは星が多くね? って言っただけだろーが」

「だから見ろってことでしょっ?」

「言ってねーし。つーか気をつけろや、乳牛」

「うるさい、アホオトコ!」


立ち止まり、ぎゃいぎゃいと口論を始めたのを、後ろから眺める。
この人たち、1日にどれくらいこんなことしてるんだろう。
コミュニケーションだとはいえ、回数多すぎー。

と、2人の言葉の応酬が止まった。
これは柚葉さんの技が今回も光るのか、と思ったそのとき、三津がため息をついた。


「危ねーからここに掴まっとけ。な?」

「へ? あ。う、ん」


三津が自分の腕に柚葉さんの手をかけた。


「手を怪我したら、仕事になんねーだろ。傷が残っても困るしな」

「あ、ありがと……」


おおおおおお。
三津が今ほんの少しいい男に見えた。

腕を組んで歩きだした2人の背中を、ついニマニマと見てしまう。
いいねー、いいねー。いや、いいもん見せてもらいましたー。

やっぱ三津にも魅せどころがないとねー。

と、くいくいとTシャツの裾が引かれた。
見れば少年があたしを見上げていた。

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