Raindrop~Mikoto side
もう思い出せないくらい昔の風景。

それが何故、今浮かんできたのか。

──それはブラームスのせいだった。

『日曜日』は、私が良く父に聴かせていた曲。

『水琴は上手だな』と、微笑みながら褒めてもらった、思い出の曲だった。


私がヴァイオリニストを目指すきっかけとなったあの言葉を、父は覚えてはいないだろう。

けれど私も。

すべてを覚えているわけではなかった。

それはあまりにも遠い過去の風景だった。




顔合わせの後、帰り際に律花さんに呼び止められる。

「水琴ちゃん、どうかしら。教えられそう? 下の子2人はまだ子どもだから素直だし、上の子も大人しいから、言うことに逆らったりしないから。変に大人びてて時々子どもらしくないことも言うけれど、みんな良い子達なのよ」

私が少し不安そうな顔をしていたせいか、律花さんは断られるかもしれないと思ったのかもしれない。

懸命にそう言ってくるので、思わず笑みが漏れた。

「こちらからお願いしたいくらいです。宜しくお願いします、律花さん」


『日曜日』のせいか、橘家の雰囲気のせいか。

なんだか少し、優しい気分になっていた。


< 24 / 251 >

この作品をシェア

pagetop