平成のシンデレラ


あの甘やかな予感に浸った朝から一週間。
毎日が実に平穏で淡々と過ぎていった。


食事の支度は朝晩二回。
昼は特に要望がある日は支度をするが基本的にはスルーだ。
後は洗濯や掃除などの家事と買出しと
ムッシュ白川から託っている計画表に従って
邸内外の管理をするのが主だった仕事だ。
来客等の接客対応ももちろん含まれるが
『普段人に囲まれているからバカンスは静かに過したい』と言うだけのことはあって
誰かが優登を訪ねてくることもなければ、彼の携帯電話も邸の固定電話も鳴ることが無い。
おかげで私も毎日決まった時間に休憩を取る事ができた。


優登は優登でバカンスの名の通り、一日一日をゆったりと過している。
午前中は邸内にある本格的なジムさながらの立派なトレーニングルームで汗を流すこともあれば
さほど遠くないリゾートホテルのプールで泳いだり、テニス倶楽部でテニスをしたりもする。
愛馬を預けている乗馬倶楽部へ行って乗馬を楽しむこともある。
その後は自室やテラスで読書をしたり
広いリビングの一角に設えてあるシアタースペースで映画を観たり
愛車でドライブに出かけることもあれば、カウチで午睡をすることもある。
夜は夜でクラッシックを聴きながら読書をしたり
スポーツ番組の観戦をしたりネットをしたり、と
それはもう優雅に存分に休暇を満喫していた。


そして私の仕事についても、今のところ文句もお叱りもない。
ということは邸の主は快適な時間を過しているということだ。
仕えている身としては大変喜ばしく結構なことではあれど・・・
何かこう物足りないというか肩透かしを食らったような気がしてしっくりこない。


あの朝の目くるめくようなキスは何だったの?
甘やかな予感はただの勘違い?独り善がりに期待しただけ?


日が経つにつれ、もどかしく、焦れったいような気持ちが募るようになった。
探してまで私をココに呼んだくせに。
私の体だけでなく心も抱きたいって言ったくせに。
なのに、どうしてこんなに無関心でいられるの?
ぶっちゃけ、ちょっとくらい誘惑めいた言動があってもいいと思うわけよ!
それなのに・・・
まるで昔からこの邸に居る古株のメイドのように
実に普通に自然に扱ってくれることが、私にはかえって不自然に感じられた。


そんなやるせない思いを抱えたまま迎えた二週間目が半ばを過ぎた頃
私は急遽、優登のパートナーとしてパーティに出席することになった。


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