モラルハザード

「それが、そうでもないんだよ。浩太んち、もうすぐ、子供が産まれるじゃん。どうやら、男の子らしいんだ。おふくろ、それには喜んじゃってさ。いざとなれば、浩太んところの子供がいるわ、なんて言ってたよ。これで、杏子も、男の子の産む呪縛から解放されるし、一石二鳥じゃん」

は?どういうこと?
そんなこと、受け入れられるはずがない。黙っていれば、手に入る開業医というステイタスを、私はみすみす手放したくない。


「そしたら、俺、無医村の医者にでもやろうかなって」


「……一人で行って」


「え?…」


「長野にも、無医村にも、一人で行って。そんなあなたの夢物語に私と莉伊佐を巻き込まないで」


携帯にメールが着た。

「薫さんお別れランチ会」との件名だったが、開かずにそのままにして、亮太を睨んだまま、冷め切ったエスプレッソを一口飲んだ。




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