モラルハザード

透は──シロだった。

身体からは、薬物の反応も出ず、事情を聞かれる中

本当に薬物とは知らず、物を預かっただけだと

警察にもわかってもらえて、その日のうちに帰って来れた。



「もう、そのテレビ消してくれや」

一緒にうどんをすすっていた透が、投げやりに言った。


このところ、透は抜け殻のようになってしまって、無気力でやる気がまったく感じられない。


楽しみにしていた、先輩Rとの舞台がこの事件によって、とんでしまったのだから、仕方がない…とはいえ

あれから、何もしない透と、どう向き合えばよいのかわからない。

そして、これは、同時にうちの経済状況にも大きな打撃を与えている。


「ね、3人でどこか出かけない?近くの公園に散歩でもいいし」


少しでも、元気づけて、仕事をしてもらおうと、遠慮しがちに物をいう。

本当は、そろそろ働いてよ…とストレートに言いたいところだけど…

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