モラルハザード
「…真琴?怖い顔してるよ…」
階段を下りたところで、透が私を振り返った。
「…ああ、ごめん、考え事してた」
私は無理やり笑顔を作った。
ビルを出たところで、透が弁護士事務所の看板を見上げた。
「真琴、大丈夫や、自己破産なんて、真琴にそんな辛い目に
合わせることはできへん」
透はそう言って、私の肩を抱いた。
その腕は力強くて逞しい意志を感じた。
「俺、決めた…」
そうつぶやく透の顔は、迷いというものがひとつもなく思えた。
「…何を?決めたの?」
見当がつかない私は子どものように尋ねた。
「…うん、もう決めたんや」
そういうと、透は私の肩を抱いたまま、歩き出した。