蜜愛シンドローム ~ Trap of Masato ~
一章

1.湧き上がる不安




翌日の昼前。


「・・・」


絢乃はベッドに座ったまま、じーっと携帯の画面を見つめていた。

画面に表示されているのは、春美の連絡先だ。

昨日の夕方に聞いた話が、頭から離れない。


・・・北條さんが辞める、なんて・・・。


雅人は絢乃が入社した時から、社会人としての基礎からシステムの知識に至るまで、様々なことを教えてくれた。

技術的な面においても人間性の面においても、雅人は絢乃の手本であり、尊敬の対象だった。

その雅人が辞める、というのは絢乃にとっては青天の霹靂だった。

キスのことより、雅人が辞めるという衝撃の方が遥かに大きい。


無意識のうちに、絢乃は携帯の通話ボタンを押していた。

しばしのコール音の後、携帯の向こうで春美の声がする。


『・・・あれ、絢乃?』

「あの、春美先輩。・・・昨日のことなんですけど・・・」

『・・・』


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