逢いたくて
「咲」

気づいたら目の前に譲がいた

「驚かせてごめんな。こんなつもりはなかったんだ。まさか咲がここの職員だったなんて知らなくて…。ごめん」

首をぶんぶんとふってそんなことはないと伝える

「俺…もう長くないんだ。嘘ついてごめんな。」

譲は謝ってばかりだ

いつも

出会ってからいつも…

「気づいた時点で手遅れでさ。仕事はうまくいかないしプライベートもそんなんで。でも咲の前だけでいいからかっこつけたかったんだ。最後くらい…。なのにこのざまだよ」

「譲…」

「迷惑かけてごめん。明日長野にあるホスピスに転院するんだ。そこで穏やかに最後を迎えたくて。俺としては最後に咲に会えて…」

そこで譲が言葉をつまらせた

譲を見ると

彼が初めて





泣いていた






目を真っ赤にして

拳を震わせながら
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