さよならまた逢う日まで

「お前さ、何のために生き返ったの？」


突然質問が飛び込んできた。



「なんか面倒くさくねぇか？この世って言う所は・・・・。

あの世に行くって言うのは、この世の修行が終わったって事なんだぜ。


いろんな面倒くさい柵から開放された喜ぶべき事なんだぜ。


今日一日の何だかんだも俺にしてみればわざわざ苦しみを背負い込んでるとしか思えねぇんだよな・・・・わからねぇ。」
　


ガブリエルは頭を掻き毟りながら首を振った。


そして胡坐をかいて俺のそばににじり寄ってきた。
　

「俺があの世行きって許可したんだから、何も問題なかったんじゃないの？」


触れるか触れないかすれすれまで顔を近づけ問いただしてきた。
　


一瞬沈黙があった。
　


「ぶっちゃけ・・・・俺がこの世に来たのはペナルティーなわけよ。三途の川で呼び戻される奴は結構いるけど、審査室まで来ているのに、生き返るなんて前代未聞なんだわ。・・・・


俺も簡単に言っちゃったけど、死んだ者が生き返るって言うのは、用意された宿命を覆すことで、そいつを含め周りの人の人生も狂わしかねない事なんだよ。」
　


胡坐の膝に手を掛け肩をいからせた姿勢で淡々と説教するガブリエルは、急に黙り込んだ。



遠くで蝉の鳴き声が沈黙の時間を際立たせた。
　

「お前・・・恨みを晴らすために生き返ったんじゃないよな・・・。」



俯いた状態で睨み付けてきた。


「は？」


唐突な質問に声が上ずってしまった。
　

「冗談じゃねぇぞ！生き返ったやつが他の死ぬはずじゃなかった奴を殺したなんて事になったら・・・・俺は一生あの世には戻れねぇんだぞ！」



冷静だと思っていたガブリエルがどんどん取り乱す様子が、奴には申し訳ないがおかしくてたまらなかった。



「実は・・・」



思いつめたような振りをして俺は呟いた。


思った通り“まさか？！”とでも言うかのように情けない顔で見返してくるガブリエルに、耐えられなくなった。
　


「ブッ！！ブハハハハ！！そんな訳ないじゃん。ハハハハッ！あ～おかしっ！人を恨む程中身がある人生ならあそこで諦めているよ。」



腹を抱え涙を流しながら俺は笑った。
　

散々笑った後、無性に寂しさが込み上げてきた。
　

「死ぬ間際に自分の人生振り返ったら、何もかも中途半端で・・・やりたい事もやらない、言いたい事も言わない。って言うか・あん時から・・・なんかあきらめちゃったんだよな・・・俺。


何も思わずただ日々が過ぎていた。」
　


いつの間にか、窓から差し込む日差しが長く傾き、窓の外で佇む大木の影が、手を伸ばしてきた。



「あんたには迷惑掛けてしまったけど・・・『生きたぞ～！』って感じて逝きたいわけよ…わけわかんないけど」


そう言うと俺はまっすぐガブリエルを見返した。



遮光カーテンが揺れ、風が心地よくそよいで来た。



「そんな事言ってはみたけど、正直まだ何をしたくて、何をするべきなのかわからない。・・・・・


でも、あんたにはこれ以上迷惑を掛けないようにする。


だから悪いけど、何も言わず見守っていてくれないかな。」




ガブリエルは静かに口を開いた。



「これだけは忘れるな、誰かの人生を大きく変えるようなことは絶対するんじゃないぞ。


そして念を押しておくが、もう１ヶ月を切ったが、期限が切れたらお前はあの世に行く。



いいな。」



期限が切れたらお前はあの世に行く・・・


心で復唱しながら、俺は覚悟を決め言った。
　


「おう。了解。」