願い事、ひとつ

そのひとを思う彼は、きれいだ。

大きな背中を丸めて、ビールを口に含み。切なく潤んだ瞳で、酒臭い息と抑えきれない恋心を逃がす。

私はその姿を横目で眺めている。息苦しさには蓋をして。


私にはこれで十分だ。


決して交わらない視線。指ひとつ触れない距離。呼ばれる事のない名前。


それ以上に大事なものが、私にはあるから。

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