仮面

「一応メモの筆跡鑑定もしましたが、上田の字でした。坂井教授が生きていれば・・光明を見出すことができるのですが。黒沢に連絡を取ろうとしても取れないし・・・・困ったもんです」




　その困り果てたような言葉のあとすぐに「あなたも坂井教授と会ったんですよね？どんなことを聞きました？」と続けて市川に問いを投げ掛けた。



　市川は困ったものの「実は黒沢さんと鉢合わせになった」という事実を原田に告げた。



　すると「そうですか。それで坂井教授とはどんな話を」と原田はあまり食いつきもしなかった。




「まぁアリバイ・・それは必要ありませんね」




　そして「実は」のあとに続けて、刺されてからの黒沢と坂井教授の話を、自分が覚えている限りを原田に伝えた。



　話を聞いているときはもちろん、市川が話し終わったあとも、口に手を当てたまましばらく原田は黙っていた。




「・・実験体というのが誰か、ですか。でもそれじゃ野村の可能性が高くなりますよね」




　ようやく口を開いた原田はそう言って、ネクタイを緩めてジャケットを脱いだ。