仮面

「忘れていただけです」



「忘れていただけ？何かを隠すために嘘を吐いたのでは？」



　坂井教授は顔色一つ変えずに「いえ、忘れていただけです」とすぐに切り返した。



　しかし市川はなおもその口撃を止めようとはせず、「質問を変えます。他に２人きりで会うような元生徒さんはいらっしゃいますか？」と訊ねた。　　　　　


　すると坂井教授は、表情は崩さなかったものの、微かにため息を吐いた。



　市川はそれを聞き逃さずに、わざとらしく心配そうな表情を浮かべた。




「お疲れですか？先程まで講義をされていたのでしょうから・・いや申し訳ない」　　　　　　　　　　　


「今日は午前中で講義は終わりでしたよ。ご心配なく」



「午前中？それでは夕方までは・・あっ研究か何かを？」




　市川がそう言うと坂井教授は「あなたのようなお客と面会していました」とため息交じりに小さな声で言った。