理想恋愛屋

3.潜入捜査

「ぜーったいに許さないわ!!」

「はいはい」

 オレは、朝からうんざりするほどこの台詞を聞いている。



 ウィンカーを右に出して、ハンドルをゆっくり右に切る。

通りの激しい大きな交差点をタイミングよく曲がった。


「ちょっと聞いてんの!?」

 助手席から腕がグイっと伸びてきて、ネクタイが引っ張られ襟元がキュっとしまる。

「うえっ、ぐるじ……っ」

 蛙を潰したような声が搾り出てしまった。


 こっちはハンドルを間違えないようにするのに必死だ。

一歩間違えれば、彼女は殺したって死ぬもんか、オレのみあの世逝き。


 それだけは勘弁!!


「大体、何とりもってんのよっ!」

「はいはい」

 左手でしまりすぎたネクタイを少しだけ緩める。





 どうしてこんなことになったのかって説明するには、時を一週間前にさかのぼることになる。



 萌との再会を果たした翌日、早速メールが入った。

出勤してパソコンを起動した瞬間だったからよく覚えている。


<葵社長へ

 昨日は突然のお願い失礼しました。
 何分、女性とお会いする機会がまともにございませんので。>


「うそつけ」

 バカにしたようにオレは画面に向かって呟いた。

あんな大企業の息子が女経験少ないワケないんだよ。


 同時に、チラリと萌の顔が浮かんだ。


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