理想恋愛屋

5.唇の挑戦状

「じゃあ、僕たちはこれで」

 兄が萌の腰に手を回して部屋に入ろうとしてた。


「ちょぉぉぉおおっと、待った!!」

 とぼけようとする兄の肩を、逃すまいとかとつかむ。

しかし、これを許してはイケないのだ。


「なんですか、葵さん?」

 笑顔を貼り付けているものの、イヤイヤということが手に取るようにわかる。


 旅館に戻った早々だ。

もう一度お湯を楽しむ暇もなく、事件勃発。


「も、申し訳ないんですけど、どちらかお二人はアイツと同室に…」


 事件……そう、部屋割りだ。

到着して早々、一行は三つの二人部屋を荷物置きぐらいにしか使わず、湯船に向かった。

そのまま卓球場と宴会場に向かったため、簡単な荷物を持ってずっと出歩いていたわけだ。


 もちろんアイツというのは、彼女のこと。

このまま兄と萌が部屋に入ってしまったら大変なことになるのだ。


「あはは、イヤです」

 返ってくる言葉はわかっていても、怯むわけには行かないんだ。

「そこをなんとか……っ」

「ちょっと!勝手に決めないでよ!?」

 食い下がったオレの背後から、ガツンと後頭部を殴られているような声が響く。

その主は確認しないでもわかる。

「いいから、お前は黙ってろ!」

 振り向き様に言い放つと、不機嫌そうな彼女。

頭ごなしに否定すれば、より一層険しい顔つきになる。


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