理想恋愛屋
 オレとは目も合わさず、ただただ諦めたように天を仰ぐ彼女。

「降雪機よこしたとき、お祖父ちゃんが出たのよ。家族にも黙って旅行にいっちゃったし」

 と、今更ながらトンデモナイことをカミングアウトし始めた。

色々いってやりたいことがあるが、なんとか堪えて事態を把握することが先だ。


どうにか脳みそを働かせながら、そういえばあの時電話口でやたらモメていたな、と旅行のことを思い出し始めた。


「そのときに言っちゃったのよね~。なんでもやってやる、って」

 はーあ、と後悔にも似たため息をつく彼女。

そうだ、そして彼女は更に言ったのだ。


『あたしの嫌いな“家の財力”まで使ったっていうのに』と。


「それで、昨日家に帰ってきたお祖父ちゃんがあたしに結婚させようとしてんの」

「ふうん……………って、ええっ!?」


 いやいやいや、彼女の若さで結婚はまだ早いだろう!

オレでさえまだなのに!

 展開の速さについていけないオレを横目に、彼女はコドモのように背中を丸める。


「まあ、お祖父ちゃんのキモチも解らなくはないの。
なにせ一人息子のお父さんはお母さんがいなくなったと思ったら、子持ちの女と再婚するし」

 別に今のお母さんが嫌いなわけじゃないけど、と彼女は付け加えた。


 オレは知らなかったのだ。 彼女のことを何一つ。

好きだった人がある日を境に兄妹になったという、ただそれだけの事実でしか彼女を見ていなかった。


「お祖父ちゃんはあたしの本当のお祖父ちゃんだし。
もちろん、お兄ちゃんにも優しいけど、やっぱりあたしのほうが可愛く見えるのは仕方ないでしょ?」

 血のつながり、というのは本当に厄介で、家族の定義を一番痛感するところだ。

それを乗り越えた彼女たちだとしても、やはりそこにどうしても格差は生まれても致し方ないかもしれない。



< 276 / 307 >

この作品をシェア

pagetop