理想恋愛屋

4.キライの反対

 勝負を終えて、オレは一人夜風に吹かれた。

本当なら今頃笑って拍手をしていたはずの、国内屈指である最高級ホテルのエントランスを出た直後だった。


「……て…っ」

 どこかで誰かの声が聞こえた気がしたけど、オレには関係ない。


「……ちな…よ…っ」

 寒さに震えながら、このまま家に帰っても虚しいだけだし、特に用もない事務所に寄ろうかな──なんて考えてたときだった。


「待ちなさい、っていってんでしょーがっ!!」


 それは聞きなれたあの切り裂く声。

そしてソレとともに、背後からドスンと背中に激痛が走る。


「いいってええぇっ!」

 ばっと振り返ると、華麗な飛び蹴りから静かに着地を決め、スカートの裾をはたいている───彼女がいた。


「痛ェな!……っていうか。なんで、ここに……!」


 そりゃもう、いってやりたいことは山ほどあるのだが。

痛みも吹き飛ぶくらい、そこにいるということが信じられなかった。


「はあ、まったく、人の話を最後まで聞かないオトコね!」

 と、白い息を弾ませながら呆れていた彼女。

そして、ツカツカと歩み寄り、今までにないくらいキツく睨みあげてきた。


「なんだよ……」

 オレが困惑しているのを見計らったように、ポケットに突っ込んでいた手をムリヤリ持ち上げられた。


「痛っ!」

 通常生活ではあまりココまで酷くならないはずの、赤くなった手のひらをジロジロ見つめられる。


「……ふうん、なるほどねぇ」

 口角がニヤリと上がる。


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