理想恋愛屋
「ストールかなんか羽織らせれば傷は隠れるだろ」

「ちょっと待ちなさい……!」

 彼女をショーに出すつもりなのが、デザイナーにも伝わったようだ。

だけど、オレも退くわけには行かない。


 …オレは……!!


「あなたも成功させたいんでしょ?」

「当たり前じゃない」

 オレの挑発にも似た質問に、デザイナーはキッと睨んできた。


「こっちも生半可な覚悟で預かってるんじゃないんだよ」

「は?」

 みんなが分かるワケない。


本当は兄がスキでスキでたまらないコト。

想いをこぼさないように強がっているコト。


 誰よりも、兄が幸せであってほしいという、願い。


そんな中で選んだ彼女の意思を、どうにか貫き通してあげたいんだ。


「黒いのは……?」

 オレがあたりを見回したときだった。

 スッと横から腕が伸びてきた。


「これです、葵さん」

 彼が、みたことないくらいまっすぐな瞳で渡してきた。

 ゆっくり受け取って、彼に力強く頷いてみせた。




「頼むぜ、実行委員長?」

.
< 96 / 307 >

この作品をシェア

pagetop