恋人達の時間

「ねぇ どこに見に行く?」



エレベーターのボタンを押して
振り返えった無邪気な笑顔が
楽しい事を目の前にして
ワクワクしている子供みたいだとつい笑みが漏れた。



「もう!笑ってないで真面目に考えて」



笑ったり怒ったり。忙しいやつだ。
見ていて飽きない。
仕事中の怖いくらいに真剣な眼差しも
ベッドで「光…」と
俺の名を囁く時の艶めき潤んだ瞳も
今、目の前でふくれっ面をしている紗紀と
同一人物なのが信じられない。
まったくコイツは大人なんだか子供なんだか。 



「光?」



紗紀・・・オマエを想う気持ちに溺れそうだ。



「そうだな…。俺の部屋」
「部屋から桜なんて見えた?」
「あぁ」



本当に?と
怪訝そうに覗き込む紗紀のウエストを引き寄せて
親指で唇をなぞった。



「愛でる花は・・・ お前一人でいい」



散り逝く花の儚さや
短く限りある花の命を惜しむより
たったひとつのこの愛しい花を
いつまでも腕に抱いていたい。



紗紀の唇に触れていた指先を背中へと滑らせて
華奢な身体を強く抱きしめくちづけた。
エレベーターが地上に着くまでの15階分の甘い時間は
これから始まる宴のプロローグ。



fin.


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