秘めた想い~紅い菊の伝説2~
 佐枝はいつものように窓の外を眺めていた。傍には義男と啓介の姿があった。三人とも口を開かず、重苦しい空気があたりを包んでいた。
 今日あったこと、絵里香が怪我をして美鈴が気を失ったことは既に義男が話していた。彼はそれらの出来事が偶然のものではない気がするとも言った。
「でも、偶然なんじゃない?。私や紺野さん、美鈴に起きたことは…」
 そう、普通に考えればこの三つの出来事は偶然だと片付けるしかない。それらには関連性が認められなかったし、共通の誰かが関与していたこともなかった。
「だけど変だ。お前のことにしても、紺野さんのことにしても、俺の関わった人に悪いことが起きている」
 義男の顔は真剣だった。
「まさか、呪いとか言い出すんじゃないでしょうね?」
 佐枝は両手で肩を抱いて細かく震えた。
 佐枝が怯えるのにも無理はなかった。今年の夏の事件の時、クラスではあの事件のことを吉田沙保里の祟りという噂が流れたのだ。そして、その普通ではない終わり方に単なる噂に信憑性が増していた。
 佐枝も、クラスの誰もがそのことを覚えていた。だから少しでも理解のできないことが起きるとその記憶が蘇ってくるのだ。
 義男は何も答えずにいる。
「じゃあ何、私があんたと関わっているから呪われたって言うの?」
 佐枝の言葉が強くなる。
「いや、お前だけだったら俺も単なる事故だと思っていたさ。だけど紺野さんのことは昨日の今日だぜ。それに落ちてきたガラスは間違いなく軌道を変えたんだ…」
 義男の言葉には力がなかった。
 啓介にも、美鈴にも話したが信じてもらえなかったことだけに自信がなかった。
 確かに落ちてくるガラスが自分の意志で軌道を変えるなどあり得ることではなかった。だが、それだけで呪いという言葉を持ち出すのも乱暴ではないかと啓介は思った。
「だけどな、呪いなんてあるはずがないだろう?。夏の事件の時だって犯人はいたんだ。第一お前の周辺を呪って何の得になるんだ?」 啓介の言葉に考え込んでしまった二人だったが、やがて佐枝が口を開いた。
「ねぇ、仮に呪いがあったとしてだけど…。呪われたのはあんたじゃなくて私や紺野さんじゃない?」
「それってどういうこと?」
「だから、誰だか知らないけど、呪っている奴って私や紺野さんに嫉妬しているのよ。私は前からこいつとつるんでいるし、紺野さんは昨日こいつに告白(こく)っているし…」 佐枝の言葉には妙に説得力があった。
「どういうことだよ…」
「あんた、自分では気がついていないみたいだけど。意外とあんたは女子に人気があるのよ」
 佐枝はおもしろくもないといった風情で言い放った。
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