秘めた想い~紅い菊の伝説2~
『今日は杉山君が話しかけてくれた。彼の声は好きだ。まだ声変わりの途中で掠れているところがとてもいい。いつかきっとその声は私だけのものになる…』
 少女は使い古された日記帳にそう記すと書き込んだページをウットリと見つめた。
 そうだ、今日までに二人の邪魔者に警告をした。彼女たちが杉山君に近づくことはもうないだろう。彼が『私の杉山君』になる日も近い…。
 少女の笑顔が不気味に歪んだ。
『どうだ、今の気分は?』
 頭の中からあの声が聞こえてきた。
 少女は声の主を自分の中に取り込んで良かったと思っていた。最初それを見たときにはあまりに不気味な姿だったので心は拒否を示したのだが、取り込んでみるとそれほどでもなかった。いや、それ以来『私の杉山君』の態度が変わった。私を優しく見つめてくれたり、話しかけてくれるようになった。
 きっと私の良さが解るようになったのだ。少女はそう思っていた。
「いい気分よ。邪魔者には警告をできたし、杉山君といる時間ができたし…」
 少女の表情は相変わらずウットリとしていた。
『だが、まだ邪魔者はいるぞ』
 少女の満足感を壊すように声は言った。
「わかっているわ。あの公園の女でしょう?」『そうだ、だが邪魔者はそれだけではない』
 声が不敵に笑う。
「誰よ、そいつは」
『少なくとももう一人。だけれどもきっと他にもいるだろう』
 他にもいる、声の言葉はその通りだと少女は思った。『私の杉山君』は女子には優しいのだ。私が彼を好ましいと思ったのも彼のそういうところだ。だから表に出ていない邪魔者もいるかもしれない。それではいつまでたっても『杉山君』を自分だけのものにはできないのかもしれない。
 少女の気持ちは焦った。
 声はそれを察しているかのようにせせら笑った。
『どうだ、彼を殺してみては…』
 声が思いもかけない提案をしてきた。
 そんなこと、出来るはずがない。
 少女の心はすぐに否定した。
 だが、声は諦めなかった。
『殺してしまえば杉山君を永遠に自分のものに出来るぞ。邪魔者達は手が出せなくなる…』
「だけど、そんなこと出来ない…」
『それでは邪魔者はなくならない。これからも杉山君の前に現れてくるだろう』
 確かに、声の言うとおりだろう。
 これから先、杉山君の前には何人もの女が現れることだろう。だが、自分は必ず彼の傍にいられるとはわからない。高校、大学、勤め先と、必ずしも一緒のところにいられるとは限らないのだ。
『私の杉山君』を永遠に自分だけのものにしたい。私以外の女が彼の傍にいることは彼女にとって許されるものではなかった。
 それならばいっそ…。
 少女の心に闇がまた生まれた。
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