焼け木杭に火はつくか?
市営マンションは、これまで改築改装を繰り返していることもあり、見た目には新しそうにも見えるが、指折り数えてみるとそろそろ築年数四十年ほどになるらしい。
ややピンクがかったベージュ色の外壁は、良太郎が東京に出ている間に塗り直された。

平屋や二階建ての多い分譲住宅も、新しい住宅や古い住宅が入り混じっていた。
リフォームして近代的な二世代住宅になっているような家もあれば、二十年、三十年前に建てたと思しき家も多くあった。

さらに、そんな住宅との中にぼつりぼつりと、大正、或いは昭和初期といった年代に建てられた思われる、古い外装の洋館や日本家屋、石蔵が紛れ込んでもいた。
それらの古い家屋は、どこかから移築されたというわけではなく、もともとこの地に建てられていたものらしい。
それを考えると、このあたりが宅地として切り開かれたのは戦前ということになる。

聞けば、その昔、とある富豪が体の弱い愛娘を静養させるために、この静かで空気のよい場所を買い取り、別宅を構えたらしい。
古い時代の家屋はその頃の名残と言われていた。
やがて、富豪はこの地を離れ、戦後、この地に住宅が作られ今のような団地になったらしい。

なんとも奇妙な団地だった。
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