焼け木杭に火はつくか?
「判った。判りましたぁ。書きます。頑張って、書かせていただきます」

面倒くさそうに母親にそう答える良太郎に、ホント? と、英吾が目を輝かせて、良太郎ににじり寄った。
滅多なことでは良太郎の仕事に口を出すことなどもなく、徹夜で仕事のときなど、黙って夜中に夜食を作ってくれたりもする母親が、ここまで言うのだ。聞かないわけにはいかないだろうと、良太郎はため息を吐いた。

「ホントに? 絶対だよ? 絶対に書いてよ?」
「おう。引き受けた」
「武士に二言はダメだからね」
「武士じゃないけど、二言はねえよ」
「小説。原稿用紙十枚くらいの。オッケー?」
「おう。まかせとけ」

酒の勢いもあって、つい気も大きくなっていた。
その上、親友からの手を合わせての頼み事だ。だから、つい、普段の良太郎なら何があっても絶対に引き受けないようなその仕事を、二つ返事で引き受けてしまった。


ほだされて。
流されて。
バカか、俺は。


そう良太郎が後悔することになったのは、その翌日だった。
< 34 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop