焼け木杭に火はつくか?
午後になり、そんな良太郎を訪ねてきた客に、良太郎はさらにうんざりとなった。
にこやかな顔をした夏海が、菓子折りを持って三島家にやってきたのだった。
昼食も取らずに自室に閉じこもり、ダラダラと寝転がっていた良太郎は、道代に「お客様よ」と叩き起こされた。

「誰?」
「夏海ちゃん」

のろのろと身支度を整えていた良太郎の手が、道代の口から出た名前にピタリと止まった。
固まってしまった息子に、道代は無情にも「早くしなさいよ」と言い捨て、機嫌のよい足取りで階下に降りていった。
良太郎が重い体を引き摺るようにして、夏海の前に出るための身支度を整えている間、リビングで道代と楽しげに話し込んでいた夏海は、のっそりと重い足取りで姿を見せた良太郎を見て立ち上がり「休んでいたところ、ごめんなさいね」と笑いかけた。

「大丈夫?」
「大丈夫よ。ダラダラしてるだけなんだから」

夏海の問いかけにダメですと良太郎が堪えるより先に、道代がそう答え、顔を突き合わせて楽しそうに笑いあう女性陣に、良太郎は何も言い返せず肩を落とした。
< 36 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop