焼け木杭に火はつくか?
エッセイもコラムもダメだと、英吾はきっぱりと断言した。


-小説を。


そう、言いきった。
夏海の指示かと思っていたが、それも全て英吾のこだわりだったらしい。


なにか理由があるのか?


ソファーに倒れこんだまま、そんなことを考えていると、ごつんという衝撃が頭に降り、良太郎は盛大な悲鳴を上げ呻いた。

「お客様の前で。だらしない」

大きなトレイを抱えもった母親が、良太郎の様子に目を吊り上げていた。

「ということで、よろしくね。三島良太郎大先生」
「話、まとまったみたいね。夏海ちゃん。ドーナツ揚げたのよ。食べてってね」

いかにも作り立てというリングドーナツと捻りドーナツが、これでもかというくらい砂糖をまぶされた姿で、大皿に山盛りになって現われた。
夏海が「あら。なつかしい」と手を叩いて悦ぶ姿を見ながら、良太郎はまた盛大なため息を零した。
< 46 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop