焼け木杭に火はつくか?
両親がいないというわけではないらしいが、小学校の運動会などの行事でも、聡の傍らに両親の姿があったことはなかった。
入学式、卒業式といったときですら、その姿は見なかったような気がする。
子どものころは何度も『お父さんは?』『お母さんは?』と聡に尋ねていたが、聡はいつでも『仕事』と答えるだけだった。
あるていどの年齢になったとき、あれは育児放棄というものだったのではないか。
良太郎はそんなふうに考えるようになり、両親にその疑問をぶつけてみたが、二人はそん判りやすいものではないのだと言う。

『赤の他人には理解しがたい、もっと、複雑な事情があってのことなのよ』

道代がそう締め括り、二人はそれ以上のことは話してくれなかった。
それは、源次郎に聞いても同じだった。

『余り首を突っ込むな。家族のことは家族でなければ理解できん事情というものがあるんだ』

源次郎にそう諭されて以来、良太郎は聡の両親について考えることをやめた。
納得はできなかったが、止めた。
だから、良太郎にとって聡の家は、未だになんとも理解しがたい不思議な一家だった。
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