桜 音






 それから私達はすぐに仲良くなっていった。

 彼はバイオリンが得意らしく、よくその音を聞かせてもらった。

 音楽には疎い私だけれど、彼の奏でる音は、とても綺麗で、どこか切なくて、聞く人を惹きつけるような力を持っているということはわかった。

 それに彼は音楽の才能だけではなく、頭も良かったので、勉強も教えてもらったりした。

 休みの日にも会ったりした。けれど、私達の合言葉は……。


 ―――夜中の十二時。あの老桜の下で。


 彼を知っていくうちに、彼のことがもっともっと好きになっていった。

 初恋だった。

 厳しい家で育ってきた私は、遊びに行かせたりしてくれなかったので、友達が少なかった。

 友達を作るので精一杯だったのに、恋愛にまで気がまわるわけがなかった。

 依。依。あなたが好きよ。

 初めて好きになった人が、あなたで良かった。

 あなたが私の名前を呼んでくれるたびに、あなたが私を見つけて微笑んでくれるたびに、私は嬉しくなる。

 できればあなたと結ばれたいけれど、そこまで我儘は言わない。

 あなたの側にいられるだけでいい。

 それだけで、いい。



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