龍とわたしと裏庭で⑥【高3新学期編】

ペロ、待ってるかなぁ


授業時間自体が短かったので、寄り道はしたけれど、帰宅時間としては早い方だ。


人にしろペットにしろ、誰かが帰りを待っていると思うと、胸がほっこりと温かくなる。


愛される方が幸せ?

そうね、そうかも。



バスを降りると、朝と違って柔らかな風が吹いていた。


バス停から家へと向かう途中に交差点がある。

和服姿の人影が信号待ちをしていた。


だけど――


一向に渡らない。


ひょっとして手押し信号だって気付いてない?


わたしは近付いてスイッチを確かめた。


『押して下さい』の電光のメッセージ――やっぱり手押しだって分からなかったんだ。

ボタンを押すと、文字が『お待ち下さい』に変わった。


その人はわたしを見て、軽く会釈をした。

上品そうなお婆さんで、淡いグレーの着物にくすんだピンク色のショールを身に纏っている。

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