雨が見ていた~Painful love~

-雨が見ていた-

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そしてその数時間後
私はキョウちゃんの自宅のある代官山駅に立っていた。



早く帰りたかったんだけど、なかなか案件を処理することができずに会社を出てきたのが夜の9時半。



そして今、時計は10時を指している。




――キョウちゃん…怒ってるかな。




そう思いながら携帯を手に取って、電話帳からキョウちゃんの名前を探していると



「オイ、クソ美。」


「え、え、えぇ!!?」


「遅いから迎えに来た。」



改札前のガードレールに座っていた、男の人に声をかけられる。





少しダボついたジーンズに大きめの白いTシャツ。黒いブルゾンを羽織ってキャップを深めにかぶっているこの男性は…


「キョ、キョウちゃん!?」


もちろん、私のカレ、藤堂響弥。





キョウちゃんはめんどくさそうに私に近づいて、私のバックをサッと奪うと



「ホレ、行くぞ。」



そう言って、強引に私の左手を握りしめる。





強引で
乱暴で
でも温かくて、優しい、キョウちゃんの手のひら。


何事もなかったかのようにテクテク歩いているけれど、私を待ってキョウちゃんはどれくらいあの場所にいたんだろう。


少しだけ
いつもより、ひんやりとしたキョウちゃんの手のひらに、私は切なさが込み上げる。



無造作に左手に持っている、私の仕事カバン。



ねぇ、キョウちゃん。
何にも言わないけど、私に負担がかからないようにバックを持ってくれたんだよね?



乱暴でわかりにくい、どこまでも天邪鬼な彼の愛情表現がいじらしい。



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