本気の恋の始め方
そうやって無心で手を動かし、頭を働かせて、どれくらい経ったのか――
「そろそろおなか、空きません?」
「えっ!?」
声のした方を振り返ると、少し離れたデスクの椅子にまたがるように座った千野君が、私を見つめていた。
まさか人がいるなんて思わなかったから、本気で驚いた。
心臓がどきどきしているのがわかって、そっと手のひらで胸を押さえる。
「千野、君。いつから……?」
もう、残業しているのは私だけ。
彼が座っているほうは、薄い暗闇に包まれている。
千野君だってことは声とおぼろげに見えるシルエットでわかるけど、表情まではわからない。
「――結構、前です」
「――」
結構前から、私のこと見てたってこと?
何のために?
どうして声、かけてくれなかったの?
呆然としていると、彼はすっと立ち上がって、私に近づいてきた。
近づいてきた彼は、とてもシリアスな表情で。
なんだかまずい気がして。
「あっ……あの」
椅子から立ち上がり千野君を見上げたその瞬間、私の体は彼の腕の中に閉じこめられていた。
「ち、千野くんっ!?」