バイナリー・ハート 番外編
2.二人きりの記念日


 終業時間を知らせる合図が、科学技術局内に鳴り響く。
 もっとも、この合図を聞いて、帰り支度を始める者は、ほとんどいない。

 皆、夕方の休憩時間を知らせる合図くらいに思っているようだ。
 科学者たちは、熱中すると時間を忘れる者が多い。
 時々現実世界に引き戻すために、合図を鳴らしているらしい。

 一時期は目が回るほど忙しかった局内も、今はすっかり落ち着いている。
 ランシュが正式にロイドの助手として職場復帰してから、ロイド自身の仕事も随分と楽になった。

 いつもはもう少し遅くまで残っているのだが、今日は早く帰らなければならない。
 出がけにユイが、なるべく早く帰ってきてと言ったからだ。

 理由は教えてくれなかったが、滅多にわがままを言わないユイが、そういう事を言うからには、何か大事な事に違いない。

 それを踏まえて、今日片付けなければならない仕事は、定時までに片付けた。
残っているのは、明日でもかまわないものだけだ。

 副局長がいたら文句を言われるかもしれないが、彼女はこのところ自分の研究が佳境に入っていて、ロイドの尻を叩きに来る回数がいつもより減っている。

 見つかる前に部屋を出ようと、定時の合図と共にロイドは席を立ち、白衣を脱いだ。

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