全てを失った二人の物語

「…気分はどうだ?
どこか怪我はしていないか?」

「ええ、トニー。
なんともないわ」

「…腹は空いていないか?」

「ええ、大丈夫――」


グウゥ〜〜


「………」

「………」


恥ずかしくて俯いていたら、シリウスがぼそっと「間違いなく空いてる」と言った気がしたが、無視した。

数秒の沈黙の後、トニーが再び聞いてきた。


「…空いたのか?」

「………はい」


赤面しながら答えたまりの顔を見て、トニーは言った。


「…素直でよろしい」


そして、滅多に見せない笑顔を見せた。
…と言っても、微笑だ。


「ここは何かと冷える。
温かいものを持って来させよう」

「あ、ありがとう!!
トニー!」

立ち去ろうとしたトニーに、シリウスが言う。


「隊長ーっ。オレには一言もなしか?
何か言ってくれてもいいんじゃないか?」


立ち止まって振り向いた隊長の眉間にしわがよっている。


「…貴様は敬語を使え!」

「おぉ〜っ、怖っ」



今度こそ立ち去ろうとするトニー。


「あ…トニー!」


だが再び呼び止められ、無表情で振り返る。
優しい無表情だった。


「シリウスは…
…絶対死刑なの?」

「…?

なんでお前が奴の心配をする?
お前は被害者だろう」

「そうだけど…でも、
死刑は残酷…かなぁと思って」


トニーがシリウスを睨む。


「貴様、まりに何か吹き込んだな?」

「おっと隊長、
何をそんなに怒ってるんだ?」


言葉に詰まる提督。
シリウスは足を組んで鼻歌をしだした。



「─…貴様に、
教えてやる必要はない。

まり、必ず助ける」




暗がりではっきりと表情は見て取れないが、トニーは顔を背け、そのまま早足で階段を登っていった。


「照れちゃって」


シリウスはニヤリとまりを見た。


「ごらんの通り、隊長はお前にお熱だ。そこをうまく利用して、オレを死刑から救ってくれ!

お分かり?」

「え゙、今のトニーのどこにそういう…えっと…あたしを、好き…ってわかるところがあったの?」






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