花街妖恋
「またお前か。何をこんなところでうろうろしておる。そんな格好しているのなら、とっとと逃げたほうが、いいのではないか?」

 苦々しげに言う九郎助の言葉に眼を細め、おさんは空を振り仰いだ。

「派手にやってくれたもんだねぇ。全く女子ってのは、からかい甲斐のある生き物だよ」

 面白そうに言うおさんに、九郎助は、はっとなった。

「お前が、付け火を?」

「まさか。何で私がそんなことを? 私はヒトが苦しむのは好きだけど、色恋絡みで悶える様が好きなだけだよ。火に巻かれて苦しんだって、ちっとも面白くないね」

 おさんの言うことも、もっともだ。
 付け火などしても、何の得にもならない。
 妖怪は己の欲望に忠実ではあるが、その代わり興味のないことには、徹底して無関心だ。

 だが・・・・・・。

「お前が火を付けたのではなくても、この火事の原因は、お前にあるのではないか?」

 九郎助の鋭い視線に、少したじろいだおさんが、僅かに視線を泳がせる。
 その態度が答えだ。
 九郎助は一瞬でおさんとの間合いを詰め、彼女の首を片手で掴んだ。
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