コワメンとマドンナ

渡辺カオルは凄かった。どう凄いかって、説明しきれないほど凄かった。

彼女が一人でいるのを俺はまだ一度も見たことがなかった。朝校門をくぐってから夕方出ていくまで必ず二三人は彼女の側にいるのだ。

そして彼女は常に周りに笑顔を振り撒き、授業中も穏やかなほほえみを顔面に張り付かせ、疲れないのかと心配になるほどであった。

これは予想通りだったのだが、彼女と俺はクラス発表のあったあの日からまだ一度も会話したことがなかった。
新クラスとなって一ヶ月が経とうとしていた。

『みんな少し待っててね。このプリント青山君に渡してくるから』

数週間前だっただろうか。空いた窓から入り込む春風に乗って鈴の音のような彼女の声が聞こえた。

全員必ず入らなければいけない委員会。俺は一番楽そうな図書委員会を選んだのだが、その最初の仕事がアンケートだった。
クラス全員に読書に関するアンケートを配り、放課後までに回収する。当然そのアンケートは彼女の手元にも渡った。

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