アネモネの丘

 ルチアは城の自室でドレスに着替えて出てきた。白いシフォンドレスにピンクの宝石が散りばめられており、可憐な容姿のルチアにとても似合っていた。隣にいるのが恥ずかしいくらい。ルチアは体系も女らしいから羨ましい。
 本当に私たちは同じ年齢なのだろうか?って疑問になる。
 というより、私と同じ人種なのか疑問になる。

「さあ、仮面を付けて?行きましょう」
「あ、はい」

 王女モードのルチアはルチアじゃないみたいで戸惑った。やっぱり王女だったんだな、ルチア。

「……ちょっと、花楓!ぼーっとしてないで行くわよ!」

 少し立ち止まっていたらルチアに怒られた。やっぱりルチアはルチアだ。

 舞踏会は城の一室で行われていた。広い吹き抜けのホール。テラスもあり、庭にも出ることができるようになっている。
 会場内で流れる優美な楽曲に乗せて数人の仮面を付けた男女が踊る。ものすごく非日常の光景に少し逃げ出したくなった。
 私だけ現実に取り残されているような感覚。この中に入っていけない気がする。

「花楓?緊張してるの?」
「ルチアってすごいね……こんなことを日常的にしてて」

 幼いころから参加してるルチアはこんなの慣れっこなのかな……。すごい。

 私が大勢の人と接するのって学校とか、宿屋の食堂くらいだ。人の人数が違う。

「全く……。あ、これからはなるべく名前は伏せて頂戴。仮面舞踏会は身分関係なく楽しむ場ですもの」

 仮面の奥でルチアは笑った。目元が見えないだけで違う人に見える。いつもと違う服装だし、化粧もしてるから誰かわからないのは当たり前か。

「じゃあ、私はちょっと回ってくるから」
「えー!置いていくの?」

 そんなことされたら、心細くて私爆発する。絶対。
 
「もう、すぐ戻ってくるから何か食べてなさいよ」

 ルチアは呆れたように言うと、ご馳走が乗ったテーブルを指差した。私はこれ以上我儘いうのも申し訳ないから大人しくごちそうを食べることにした。
 食べることにしたのはいいけど、コルセットで締め付けてるからあんまりお腹に入っていかない。
 仕方なく、近くに置いてあった椅子に座って飲み物をちょびちょびと飲むことにした。


 
< 13 / 37 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop