アネモネの丘
 もしかして騎士になれなくて帰ってき辛かったからこんな夜中に帰ってきたのかもしれない。どうレスターに接したらいいのかわからない……。
 なんてフォローをいれようか?レスターだから仕方ないよ、とか?駄目だ、確実に怒られる。

「ドンマイ。次があるよ」
「お前、何か勘違いしてるだろ?」
「え、騎士になれなかったんじゃないの?」

 私が言うと、レスターは私の頭を小突いた。

「逆だ逆」

 逆?騎士になれたってこと?あのレスターが?
 私はその言葉を信じることができなかった。まさか、騎士になるにはブルクの学校の首席でないと難しいって言われているし……。

 でも、ディルクさんに小さい頃から剣術は習っていたらしいし、知識もたくさん持ってはいた。何も知らない私にこの世界について教えてくれたのはレスターだ。そう考えると、レスターがなれても不思議ではない気がしてきた。

「……まだちょっと疑っちゃうけど、おめでとう」

 でも、騎士になるとレスターが近くにいるのに遠くなってしまう気がする。騎士は憧れの存在であるし、未婚の騎士はそれはモテる。クラスメートも巡回中の騎士を見て黄色い声援を送ってるし、城にわざわざ見に行く人もいるらしい。
 なんか、寂しい。
 違う人になってしまう気がする。

「ありがとうな、花楓。……おめでとうて言ってるわりに顔がぶすっとしてるぞ?」
「そんなことないよ。それより、お土産は?」

 レスターにこんなこと知られたら呆れられるし、何か知られたくない。
 昔の私のままで接しないと。まあ、今も昔もそんなに変わってないけど。

「ああ、……また今度な」

 レスターは苦笑してそう言った。買ってきてくれたなら今くれたらいいのに。と思ったけど、我慢。レスターも疲れてるだろうし、私も寝なきゃいけないからこれ以上会話は伸ばせない。
 それに、何か聞いちゃいけないような気がした。気になるけど。もし、何か月経ってもくれなかったら容赦なく聞いてみよう。

「わかった。楽しみにしてる。……夜遅いし、またね」

「ああ。……そういえば、今日の舞踏会は行ったのか?」
 レスター……余計なことを。
 私は頷くだけにした。あんまり聞いてほしくない。私がそう思ってることをレスターはいつも察して聞かずにいてくれる。だけど、今日は違った。

「どうだった?」

 三年会ってないから私の表情がわからなくなったんだろうか?でも、今絶対聞いてほしくないと思って眉間に皺を寄せてるはずだけど。
 私は驚いて思わずレスターを二度見してしまった。

「……嘘だ」

 私が困って喋れずにいたらそう言って私の頭を撫でる。

 そして、じゃあな、と言うと私に背を向けて家の中に入っていった。


 一瞬、私の知らないレスターが見えた。三年という月日は大きいのかとこれほどまで感じたことは無かった。



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