異人乃戀
壱§裏倭

漆黒



 漆黒の闇の中から泣き声が聞こえてきた。見渡しても、暗闇では何も見えない。

 不思議と暗闇に恐怖を感じない。

 声のする方へ歩いて行くと、天の隙間から降り注ぐ微かな光の中、少年がうずくまっていた。
 話し掛けても少年は何も反応しない。ただただ泣くばかり。

 肩を優しく叩くと、やっとで少年は顔を上げた。闇と同化するような漆黒の髪に、青い瞳。大きな目から零れ落ちる涙は切ない気持ちにさせる。

 少年は泣き止むと、悲しみの宿った笑みをみせた。その笑みはとても大人っぽく、少年とは思えない。泣いている時よりも悲しみの色が濃く、どうすれば良いのか分からなくなった。

 その時、小さな口が何か囁いた。よく聞き取れず、顔を近付けると、また口を開いた。

「やっとで逢えた」

 顔を見るより先に少年は立ち上がると、手を引いて走り出した。
 気付くと、小さな少年の手はいつの間にか大きな手になり、前を走る影も大きくなっていた。

「いつか会えると信じていた」

 先程よりも低い声は、闇に吸い込まれ、直ぐに消えた。しかし、耳から離れてはくれない。

 どこかで聞いたことがあると考えたが、誰かは分からなかった。


 なおも走り続ける。その時、見えていた微かな光は次第に大きくなり、目が開けられない程に眩しくなったーー。








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